









山林資源を循環させ、温暖化抑制にもつながる、地球にやさしい新しい「木の家」。山に眠る木を余さず活かす建築を試みた。使用したのは、需要の低下により行き場を失った県産杉の大径材。これらの材は市場の規格に合わせて細かく製材され、歩留まりは4割程度にとどまる。こうした現状が、山の循環と林業の持続性を阻んでいる。そこで今回は、耳付きのまま製材することで約9割の歩留まりを実現し、木のクセや節、肌理といった個性もそのまま活用した。
構法には丸太組工法を選択。市場に出やすい4m以内の材を継いで、屋根まで一体的に組み上げることで、搬出や加工の手間を抑えながら、構造と仕上げを兼ねた合理的な大空間を実現している。床面積1㎡当たりの木材使用量は一般的な木造住宅の約4倍にあたり、建物全体が巨大なCO2ストレージとして、地球温暖化抑制にも貢献している。
大量の木材は、見た目や触感に豊かさを与えるだけでなく、断熱性や蓄熱性にも寄与しており、夏の暑さや冬の寒さを和らげ、化学建材に頼らず快適な室内環境を生み出している。静けさや香り、やわらかな手ざわりなど、五感に届く心地よさもこの建築の一部だ。
外装には、農業用資材のポリカーボネート波板を採用。強い風雨から木を守りながら、農と山の資源が交わるこの土地にふさわしい、素朴で軽やかな佇まいをつくり出している。山と暮らしの距離を縮める、素材から考える建築のひとつのかたちである。
株式会社マウントフジアーキテクツスタジオ一級建築士事務所 建築家 原田 真宏/麻魚